最近読んだ本 その11:ダメな議論
- 作者: 飯田泰之
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2006/11/01
- メディア: 新書
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激しくおすすめ。以前飯田先生(id:Yasuyuki-Iidaさん)ご本人より予告をいただいていたので出てすぐ購入しました(例によってご紹介が激しく遅れましたけど)。とりあえず「ダメな議論」の例として取り上げられてなくてほっとしますた(笑)*1。
まず本書で面白いのは前提となる議論の展開の仕方。「ダメな議論」について議論するとき、実際には「良い議論」とは何か?って話になるのが普通だと思うのですが、著者はあえてそこには立ち入っていません。なんとなれば、「良い議論」の定義は時と場合によって様々であり、そもそも「良い」を定義するのは著者も言うように「哲学の究極目標」のようなものだからです。
なので、本書ではそのような毛深い領域を直接扱わず、代わりに「ダメな議論」の特徴を挙げ、このいわば「ダメな議論」チェックリストを用いて、対象となる議論が良いかダメかをquickに切り分ける方法を提供することを目的としています。
つまり、議論全体の集合から「良い議論」の部分集合を抽出するにあたって、「良い議論」そのものを扱うのではなく、まず「ダメな議論」の部分集合を排除しよう、という戦略なわけです。
もちろん、この作業の後に残ったものは純粋な「良い議論」だけではなくグレーなものも含まれているわけですが、その切り分けは必要であれば後で時間をかけてじっくり行えば良い。世の中の議論のほとんどが「ダメな議論」であることを考えると、これは非常に効率的な戦略であると僕は思います。いかにも経済学者らしいアプローチでお見事というほかありません。
というわけで、本書に「良い議論とはかくあるべき」という提言を求めると肩透かしを食らうことになるでしょう。気持ちはわかりますが、本書は文字通り「ダメな議論」についての本なのです。「良い議論」について知りたい向きは、まずはその分野の入門的な教科書を手に取るのが吉と存じます。閑話休題。
本書は大まかにいうと次のような構成となっています。
1. 「ダメな議論」が何故人々に受け入れられ広まるのかについての考察(1章)
2. 「ダメな議論」を見分けるチェックポイントと予想される「反論」への予めの反論(2・3章)
3. チェックポイントを用いて実際の「ダメな議論」を検証(4・5章)
1章の、占い師が何故人を説得できるのかという話も大変興味深かったのですが、やはり圧巻は2・3章のチェックポイントと注意点を実際に用いての、4・5章で展開される「ダメな議論」の検証でしょう。
著者が経済学者だけに、取り上げられるのは、ニート「問題」・食料安保論・財政危機論・バブル悪玉論・創造的破壊論・国際競争力論・アジア共通通貨、と最近よく目にする経済分野の話題です。巷間の通説がいかに適当で怪しい根拠しか持っていないかがよくわかり、目からウロコが落ちまくることうけあいです*2。
非常にとっつきやすくてわかりやすい、しかも応用が効いて世間の「ダメな議論」のダメさもわかってしまうという2つの意味で非常に実用的な本書は、ほんとに激しくおすすめです。今更ですが未読の方は是非どうぞ。僕は記念にもう1冊買って母に送り自慢するつもりです。わはは。