クルーグマン「今とその後で」

どうもみなさんご無沙汰しております。なんとか生きてます。最近twitterはじめました。
訳せという声が聞こえた気がしたので訳してみました。久しぶりなので時間かかった(笑)。
変なところがあれば教えて下さい。
原文はこちら


今とその後で

By PAUL KRUGMAN
Published: June 20, 2010

経済が落ち込んだままの今はお金を使って、回復したらその後で倹約する。これってどのくらい理解するのが難しいことなんだろう?

現在の政治的な議論を見る限り、とっても難しいみたい。世界中で、政治家たちはその反対をすることに決めたみたいだ。彼らは、経済が助けを必要としているときにひどい扱いをしたくてしょうがない一方で、長期的な財政問題の処理には尻込みしているんだ。

でもこの問題の明快な説明を聞けば気が変わるかもしれない。と言うことで長期と短期の財政赤字の話をしよう。僕はアメリカの状況を取り上げるけど、同じ話が他の国についても言えると思う。

皆さん既にご存知の通り、今のところアメリカ政府は大きな財政赤字を抱えている。けれどもこの赤字のほとんどは、歳入を落ち込ませ、金融システムを救出するために巨額の支出を必要とした、現在進行中の経済危機の結果なんだ。だから危機が収まれば状況は良くなる。連邦議会予算事務局は、オバマ大統領の予算案の分析の中で、経済の回復によって財政赤字は現在のGDPの約10%から2014年にはGDPの約4%に減るだろうと予測している。

でも残念ながら、これだけじゃ十分じゃない。たとえ政府の年間借り入れがGDPの4%で安定したとしても、政府の総負債は歳入よりも速く増え続けてしまう。それに加えて、予算事務局は、財政赤字は2014年に底打ちした後、主に医療費の増加のおかげでまた増え出すと予測しているんだ。

ということでアメリカは長期的な財政問題を抱えているわけだ。この問題を処理するには、まず第一に、医療費を管理下に置こうという現実的な努力が必要となる。それなしでは何もうまくいかないだろう。加えて、追加の歳入を見つけるか、もしくはそれと同時に歳出カットも必要となるだろう。経済的には、これは難しい問題じゃない。特に、控えめな付加価値税を、例えば5%とすれば、アメリカの税制を世界中で最も低く保ったまま、(訳注:歳入と歳出の)ギャプを埋めるのに多いに役立つだろう。

で、もし我々が結局は増税して歳出をカットする必要があるとして、それは今始めるべきだろうか?いや、そうじゃないんだ。

たった今、我々はひどく落ち込んだ経済状況にある。そして、この落ち込んだ経済は長期的な損害を生み続けている。毎年、極めて高い失業率のまま推移するたび、長期失業者は職に復帰するチャンスを失い、社会の底辺に固定化されてしまう。毎年、職を求める人が求人の5倍にもなる状況では、何十万人もの学校を卒業したアメリカ人が、彼らの職業人生を始めるチャンスを拒絶されてしまう。そして一ヶ月が経過するたびに、我々は日本が陥ったデフレーションの罠に落ち込んでいく。

こんな状況のときにケチケチ倹約しようとするのは、ただ冷酷非情なだけじゃない。この国の将来を危うくするんだ。それに、倹約は我々の将来の負債を軽減するのにも役立たない。今支出を出し惜しみするのは、歳入の増加を期待出来る経済回復を危うくするからだ。

ということで、今は緊縮財政の時期じゃない。では、我々はどのようにその時期が来たと知ることができるのだろう?財政赤字問題が優先されて良いのは、唯一、Fedが再び経済を牽引しだした時期である、というのがその答えだ。増税と支出削減の負の効果が、金利の引き下げによって相殺されるからだ。

今のところ、Fedはそれをすることはできない。というのも、彼らが操作できる金利はゼロ近傍にあり、これ以上引き下げることができないからだ。しかしながら、いずれ失業率が低下するに従い(恐らくは7%かそれ以下に)、Fedはインフレの可能性を防ぐために金利を上げようとするだろう。そのときこそ、我々が動くときなのだ。政府は歳出の削減を開始して、Fed金利引き上げを遅らせる。そうすることで、歳出削減が経済を再びスランプ状態に押し倒すことがなくなるのだ。

でもそうなるのはずいぶん先のことだろう。たぶん2年かそこらは。だから重要なのは、今はお金を使って、と同時に、後で節約するのを計画することなんだ。

先に書いた通り、多くの政治家たちはその反対をやろうとしているみたいだ。連邦議会の多くのメンバーは特に、我々にはそんな余裕はないという理由で、長期失業者や、ましてや財政難で四苦八苦の州と地方自治体を救済することに反対している。そうすることによって、彼らは我々がまさに必要としている時期に支出することを台無しにし、経済の回復を危険にさらしている。その上、医療費のコストに関する努力なんかは延命中止の絶叫に直面している。

そして連邦議会で最も喧しい財政赤字のガミガミ屋は、数百万ドルの財産を相続した一握りの幸運なアメリカ人の税金を減らすことに精を出している。これは今の経済には何ももたらさないどころか、毎年何十億ドルもの歳入を恒久的に減らすことになる。

とはいえ、一部の政治家たちは財政責任に対して誠実になるべきだ。なので僕は彼らに言いたい。どうか正しいタイミングで。そう、我々は長期的な財政問題を解決する必要がある。でもそれは、我々の経済が助けを必要としているときに、それを拒むやり方ではダメなんだ。