最近読んだ本 その10:新書3冊
- 作者: 田中秀臣
- 出版社/メーカー: ソフトバンククリエイティブ
- 発売日: 2006/08/17
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激しくおすすめ。出てすぐ購入、すぐ読了。でもご紹介するのが何故か遅れてしまいました。すいません。
既に方々で紹介され尽くされている(ざっと見渡したところ、読み応えのあるものとしてラスカルさん、cogecoさん、toshimさん、切込隊長さん、bewaadさんなど)ので今更な気が激しくするわけですがこれはいつものことですかそうですか。屋上屋を重ねることを自覚しつつ、メモとして書いておきます。
ということで無理やり要約してしまうとこの本はこんな感じです。
・まず「格差」や「ニート」など最近話題となっている問題を取り上げてそうした問題と小泉政権の経済政策との関係を述べ(第1章)
・小泉政権の経済政策の問題(キーワードとしては「清算主義」、「明確に定義されない構造問題」と「構造改革主義」、郵政民営化の議論などに見られた極端に単純化された「二元論的ポピュリズム」など)をふりかえり(第2章)
・このような問題のある経済政策に対して、過去・現在の日本のエコノミストがどのように対処してきたか(またはしてこなかったか)を概観し(第3章)
・小泉政権の経済政策の最大の特徴である「構造改革主義」が過去の日本のエコノミスト(ルーツとして挙げられているのは笠信太郎、三木清、都留重人、森嶋通夫、高田保馬、西部邁、村上泰亮)の主張に因っていることを明らかにしてその主張の問題点を指摘し(第4章)
・その問題ある「構造改革主義」に対置するものとして「期待の経済学」を挙げ、ヴィクセル、ケインズ、(ケインズの日本の紹介者である)鬼頭仁三郎の研究を紹介、また「期待の経済学」の重要な要素である「レジーム転換」を昭和恐慌時の高橋亀吉の主張を挙げて解説し(第5章)
・現在の日本の経済問題に対処するにあたって「レジーム転換」が有効であること、そのためには「インフレーション・ターゲット政策」の実行が望ましいことを述べ(第6章)
・日本の経済問題の処方箋として構造改革主義者が主張する「東北アジア共同体」は「大日本主義」的であるとし、それよりも「レジーム転換」「インフレーション・ターゲット政策」などの「リフレーション政策」による日本経済の建て直し、及び石橋湛山が唱えた「小国主義」的対応の方が、「対抗的ナショナリズム」を緩和し平和を実現するために望ましい、と説く(終わりに代えて)
と、ご覧いただければわかるように新書とは思えぬ情報量で無茶苦茶お徳感溢れるお買い物となっております。最初に読んだときは一部やや強引と思われる展開となっているところがあると感じたのですが、原因は紙面スペースと僕の頭の回転速度の制約にあるようです。読み返すとそれぞれの議論は整然と論理的に配置されております。大変失礼いたしました。
圧巻はやはり第4章の「構造改革主義」のルーツを訪ねるところ。ケインズの次の言葉を思い出してしまいました。
経済学者や政治哲学者の思想は、それが正しい場合にも間違っている場合にも、一般に考えられているよりもはるかに強力である。事実、世界を支配するものはそれ以外にはないのである。どのような知的影響とも無縁であるとみずから信じている実際家たちも、過去のある経済学者の奴隷であるのが普通である。権力の座にあって天声を聞くと称する狂人たちも、数年前のある三文学者から彼らの気違いじみた考えを引き出しているのである。
私は、既得権益の力は思想の漸次的な浸透に比べて著しく誇張されていると思う。もちろん、思想の浸透はただちにではなく、ある時間をおいた後に行われるものである。なぜなら、経済哲学及び政治哲学の分野では、25歳ないし30歳以後になって新しい理論の影響を受ける人は多くはなく、したがって官僚や政治家やさらには扇動家でさえも、現在の事態に適用する思想はおそらく最新のものではないからである。しかし、遅かれ早かれ、良かれ悪しかれ危険なものは、既得権益ではなくて思想である。
「雇用・利子および貨幣の一般理論」(ASIN:4492312188) 386ページ
正しくもケインズの予言の通り、過去の思想家や学者(三文かどうかはさておき)の主張が現在にかくも大きな影響を与えていることを明らかにしている点で、この第4章は非常に重要です。ここでの問題はその影響の大きさであってその主張が正しく引き継がれているかではない。その意味で、第4章で挙げられている思想家・学者の扱いに関するhamachan氏の批判(ここのコメント欄やここ)は的を外しているように思えてなりません。
まあ何はともあれ、まだお読みでない方は是非どうぞ。論理の展開が早いと思われた方は、最後のブックリストがとっても参考になるでしょう。
- 作者: 岩田規久男
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2006/09
- メディア: 新書
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激しくおすすめ。こちらも出てすぐ購入読了。
で、やっぱりこちらも既にあちこちで話題になっており(例えばarnさん、mxnishiさん、koiti_yanoさん、Yasuyuki-Iidaさん、ラスカルさん、bewaadさん、dojinさん)、今更僕が付け加える点はないのですがちょっとだけ。
曖昧で漠然とした「構造改革」の中身を「小さな政府」を目指す政策と位置付け、その上で20世紀半ばの先進国の福祉国家化(「大きな政府」化)の流れとその後1980年代のイギリス・米国に代表される「小さな政府」への政策の転換、及び「大きな政府」としてよく代表されるスウェーデンの現状を紹介し、日本での「構造改革」の成果のふりかえり、現状の問題点の指摘と今後望まれる方向性を示した本。
確かに、タイトルがミスリーディングだったり(反「小さな政府」的主張を行う本のように見えるが実際は逆)、政府の大小の客観的基準が示されていなかったり(bewaadさんが指摘されているように日本は既に「大きな政府」ではない、との議論もある)、arnさん、bewaadさん、dojinさんが指摘されているようにナショナルミニマムや地方財政についての議論が不十分な点もありますが、今後の日本の経済政策・福祉政策を考える上で極めて優れた視点を提供してくれる本です。必読です。
本書で示されている自由主義的な観点が楽観的に過ぎる、という方には、バランスをとるために「格差社会―何が問題なのか」(asin:4004310334)をおすすめしておきます(後ほど取り上げる予定なり)。
- 作者: 薬師院仁志
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2006/08/12
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個人的には激しくおすすめ。書店で目に付いて「経済政策を歴史に学ぶ」と一緒に購入。
「リベラル(自由主義)」と「保守(conservative)」という用語は欧州と米国では正反対の思想を指しているにもかかわらず*1、日本ではその違いについてめったに指摘されないため無用な混乱が生じている、と常々感じている方は必読です。本書を読むとこの違いがかなりすっきり理解できます。って混乱しているのは僕だけですかそうですか。そんなことは百も承知、って方には面白くないかもしれません。
著者の日本の左翼に対する批判は痛烈。僕も同じことを考えていたので痛快でもあります。僕が「変なリベラル」といっていたのもあながち間違いではないなあと思った次第。
とは言っても著者は「リベラル」(本書でいうところの。一般的には「ネオリベw」)の主張に与するものではないのが面白いところ。僕とは異なった立場のため納得のいかない議論もありますが、そこはそれとしてまた面白かったです。
自由と平等はセットではなくトレードオフの関係にある。自由と平等は常にセットではなく、トレードオフの関係にある部分もある*2。日本の左翼がダメなのはこの点を理解していないため政策提言に一貫性がなく政策がパッケージにならないところなんだよなあ。民主党が自民党に対抗するためにより過激な政策を掲げざるを得ないのも同根の問題。
本当は思想系の人たちはこういう話をしていくべきと思うんだけど、ソレ系の人たちのほとんどは「誰がどういった・いってない」のタコツボ議論に終始しているように見えてしょうがない。思想が輸入モノのブランドになっていて政治・経済・歴史に接続していない現状は悲惨だし、そのためにお粗末な議論と政治が行われているのはもっと悲惨だ。どうにかならないものかしらん。