サラ金業は「儲かる」か?

これも激しく今更な話題ですが。

利息制限法改正による上限金利規制の議論についてはまったくついていけてないのですが(笑)、いちごびびえすでのすりらんかさんのまとめによると、上限金利規制の是非を考える際には貸金業界における超過利潤の有無の検討が必須とのこと。つまり、貸金業が「儲け過ぎ」であるのであれば、上限金利規制によって社会厚生が改善する余地があるよ、とのことです(意訳しすぎですかそうですか)。

そこでちょこっと調べてみようとしたのだけど、そもそも超過利潤の有無ってどうやってみれば良いのかわからんという罠。単純にROA(総資産純利益率)や総資産経常利益率を他業界と比べるわけにもいかないし(業界によってまちまちなのです)。

ということでちょっと視点を替えて、貸金業の中でも大きな問題となっている(と思われる)消費者金融事業者の個人向無担保貸付がどの程度「儲かる」のかを調べてみることにしました。これだと、各事業者の資産における営業貸付金に占める個人向無担保貸付金の割合と「儲け」をみてみれば良いので、まだ調べようがあります。「儲け」の指標は総資産経常利益率を使うことにしました。

調査対象企業はこのページの2004年貸付残高ランキングなどを参考に、単独の有価証券報告書が入手可能な以下の8社としました(カッコ内は2006年3月31日現在の営業貸付金(百万円)とそのうちの個人向無担保貸付金の比率)。ちょうど最大手4社と中小4社を比べることになりますね。

1. アコム  (1,596,276、 97%)
2. 武富士  (1,540,046、100%)
3. アイフル (1,512,717、 75%)
4. プロミス (1,295,316、100%)
5. 三洋信販 ( 355,441、 94%)
6. ニッシン ( 215,056、 1%)
7. シンキ  ( 138,465、 55%)
8. クレディア(  87,831、 83%)


source: 各社ウェブサイト、
またはEDINET(https://info.edinet.go.jp/

調査方法は例によってグラフを虚心坦懐に眺める方式で(笑)。本当だったら回帰式作って各係数の寄与度を見るんでしょうけど、やり方よくわからんしそもそもサンプル少ないんで僕はパスです。わはは。誰かやりませんか。

で、結論から言うと以下のことが言えそうな気がします。

1. 消費者金融業は規模の経済が働く業種のようです

2. 個人向無担保貸付は他の貸付と比べ儲かるみたいです

なんだか歯切れが悪くて申し訳ないんですがなにぶんグラフ眺めただけですしサンプルも少ないのでお許し下さいませ。この調査結果は所詮素人がやってますんで信用するかどうかは自己責任(笑)でおながいします。あと毎度のことですが変なところがあればばしばし突っ込んでくださいまし。



ということでいってみましょう。まずは営業貸付金の規模と「儲け」がどのように関係しているのか?をみてみます。



【図1:貸付金の規模と「儲け」は比例するか?
営業貸付金と総資本に対する経常利益率】

三洋信販を例外として、だいたい規模が大きければそれだけ儲けも良い、ということが言えそうです。まあ普通のビジネスと同じく、消費者金融業界も規模の経済が働くわけですな。

次に、個人向無担保貸付は他の貸付(有担保・ビジネス向けなど)に比べ「儲かる」のか?を見てみます。まずは、営業貸付金に占める個人向無担保貸付の割合と、平均貸付金利(営業貸付金利息を営業貸付金で割った数字)をグラフにしてみます。



【図2:個人向無担保貸付は「儲かる」か?その1
営業貸付金に占める個人向無担保貸付金率と平均貸付金利

予想通り、個人向無担保貸付の比率が高いほど、貸付金利も高いようです。

それでは、個人向無担保貸付の比率が高いと、「儲け」(総資本経常利益率)も高いのか?を見てみたのが次のグラフです。



【図3:個人向無担保貸付は「儲かる」か?その2
営業貸付金に占める個人向無担保貸付金率と総資本に対する経常利益率】

三洋信販とクレディアを例外として、だいたい個人向無担保貸付の比率が高いほど、「儲け」も良いようです。三洋信販はやたらと効率的な経営をしており、クレディアは規模が小さいため苦戦している、といえそうです。

ということで、これだけを見る限りでは、どうやらサラ金(個人向無担保貸付)は、他の形態の貸付に比べて儲かる、と言えそうです。僕個人としては上限金利規制には反対の立場(やたらに政府が規制をするのはよろしくない)なのですが、少し慎重な議論が必要のようですね。



で、これだけではアレなんで、じゃあそんなに儲けの良い個人向無担保貸付に特化しない企業があるのは何故なんだろうか、をさくっと調べてみました。個人向無担保貸付への参入を難しくしているものとして、とりあえず考えられるのは次の3つでしょうか。

a. 知名度。個人向なんで重要

b. 貸出審査や回収のノウハウ。個人向貸出はハイリスクハイリターンなんで重要

c. 資金調達コスト。これも個人向貸出はハイリスクハイリターンなんで、低利でお金を出してくれる相手がいるかどうかはとても重要


で、それぞれの仮説に適当な指標を見繕ってグラフにしてみたのが以下のものです。

まずは知名度について。売上に占める広告宣伝費の割合を指標に使ってみました。



【図4:個人向無担保貸付への参入障壁は何か?
広告宣伝費の可能性
営業貸付金に占める個人向無担保貸付金率と営業収益に占める広告宣伝費】

やはり、個人向貸出の比率が大きいほど広告宣伝にもお金がかかるようです。武富士、プロミス、アコムが個人向貸出比率からすると広告宣伝費が少ないように見えますが、これは規模が効いているのと、昨今の問題で自粛しているのと、2つ理由が考えられそうです。

次に、貸出審査や回収のノウハウの存在を、売上に占める貸倒引当金繰入額の比率を指標として見てみたのが下のグラフです。



【図5:個人向無担保貸付への参入障壁は何か?
貸倒引当金の可能性
営業貸付金に占める個人向無担保貸付金率と営業収益に占める貸倒引当金繰入額率】

かなりばらけてますが、規模が大きくノウハウがありそう(=貸倒引当金が比較的少なくて済む)な大手4社(アコム武富士アイフル、プロミス)+やたらと効率の良い三洋信販のグループと、規模が小さくノウハウが少なそう(=貸倒引当金が多く必要)なシンキ、クレディア、という風に分かれているように見えます。

最後に、平均資金調達コストを、営業費用のうちの金融費用(主に社債と借入金への利払い)を、社債(一年以内償還予定のもの含む)、借入金(短期と長期)、及びCPの合計で割って出してみたのが次のグラフです。



【図6:個人向無担保貸付への参入障壁は何か?
資金調達コストの可能性
営業貸付金に占める個人向無担保貸付金率と平均資金調達コスト】

やはり、個人向無担保貸付が多いと資金調達コストが嵩むようです。プロミスとアコムのコストが比較的低いのは、メガバンクとの提携が効いているのでしょうか。三洋信販はやたら資金調達が上手なんでしょうか。武富士のコストが高いのは関係会社長期借入金なんてのがあったからでしょうか。よくわかりませんけど。

ということで、個人向無担保貸付は儲かるけれども、やっぱりそれなりに大変そうだということがわかりました。ま、お金かかってもその分儲かってはいるわけですけどね。



以上、ぐだぐだと調査結果のご報告でした。結論としては、サラ金(個人向無担保貸付)はどうやら他の貸付と比べ儲かるようだ、ということが言えそうです。

ただし、この結果をもって即サラ金は「儲け過ぎ」といえるかどうかはまた別な問題です。民間企業が「儲け過ぎ」かどうかというのは難しい問題といえます。日本企業はよくわかりませんが、総資本経常利益率ほぼROAに相当*1)が6%を超えている業界や企業は沢山あると思います。

一方で、上限金利規制によってすぐに個人向無担保貸付を行う企業が続々と撤退してヤミに潜る、ということもなさそうです。うまみが減るとはいえ、そこそこやっていける余地はありそうに見えます。

しかしまた一方で、個人向無担保貸付は規模が効くビジネスであるため、上限金利規制によって中小規模の企業は撤退を余儀なくされ、より一層寡占化が進むことはあり得そうです。現状で既に上位4社で60%、更に外資系2社を加えた上位6社で76%とかなり寡占が進んだ状況なので、これ以上寡占化が進むと、大手に相手にされない債務者がヤミに取り込まれる、など状況が悪化する可能性もありそうです。

と、経済学徒らしく(笑)other handを多用してぐだぐだになったところでこの辺で。また知恵熱が出そうであります。では皆さまごきげんよう

*1:追記:経常利益は税引前の数字なんでROA相当ってのは嘘でした。すみません。それにそもそも金貸し業は負債が膨らんでいるんで総資本と何かの比率では儲かっているかどうかを他業種と比べられないのは冒頭に書いた通り。やっぱりある企業が「儲け過ぎ」かどうか判断するのは難しいですな、と。ちなみにサラ金業界のROAはだいたい3%前後のようです。