最近読んだ本 その7 戦前昭和史編

前回(最近読んだ本 その6)の最後に書いたとおり、最近(といっても7月くらいから)戦前昭和史にはまっておりだらだらと読んでおります。結構たまってきたのでメモ。例によって内容はほとんどおぼえてないので本当にメモだけになる予定。



昭和史 1926-1945

昭和史 1926-1945

おすすめ。まずは概観を、と思い、以前この著者の山県有朋の伝記(asin:4569569218)を読んで好印象を持ったのと容易に入手可能だったことから購入。大変読みやすく面白い。

今から振り返ると軍部と宮中の話が詳しいのが特徴かもしれない。海軍(の一部。いわゆる条約派)と昭和天皇が大好きになってしまう恐れがあるので解毒剤を用意してから読むと良いかも。



昭和史〈1(1926‐45)〉

昭和史〈1(1926‐45)〉

激しくおすすめ。確か新宿ジュンク堂で購入。

前回の「昭和経済史」(asin:4006001762)の紹介のときにも書いたのだけど、中村先生の著作は本当にバランス良く書かれていて深みがある。半藤本ではあまり触れられていなかった経済や思想について記述されており大変興味深い。

リフレ派的には金解禁断行で知られる(笑)浜口内閣は、一方ではロンドン条約で海軍軍縮をも断行し、これが例の「統帥権干犯」問題として将来に禍根を残し5・15、2・26に繋がることになった、なんてことを読むと本当に歴史というのは多面的に見ないといかんものであることだよなあ、とつくづく思う。



日米開戦の真実 大川周明著『米英東亜侵略史』を読み解く

日米開戦の真実 大川周明著『米英東亜侵略史』を読み解く

正直言って「これはひどい」タグを死ぬほど付けたくなる本。以前この著者を面白いと思っていたときに買ってあったもの。ちょうど良いタイミングで読むことができた。もう本当にこの人の本は今後一切買わないつもりなり。

何がひどいといって2つのレベルでひどい。ひとつは大川周明の論そのもの。米国の通商を通じたアジア支配の野望と英国の植民地政策の酷さを論じているのだけれど、これらをもってして「日本は自存自衛のため開戦せざるを得なかった」「日本はアジア開放のために戦った」とするのは僕に言わせれば笑止千万、軍部・東条内閣のプロパガンダにしか読めない。

なんとなれば、大川は、日本がその「自存自衛」のために朝鮮、満洲、北支・南支、インドシナへと、明確な見通しもないまま次々に強引に出て行ったこと、よって「アジア開放」なんてものは後付けの屁理屈に過ぎないことにまったく触れていない。客観的に見れば、当時の日本は今の北朝鮮やイラン以上に訳のわからない、何をしでかすかわからない国であったのだが、そのことはこの大川の論説からは全く読み取れない。

自らをその境遇に至らしめた理由を語らずに相手の非難ばかりしているようでは客観性に著しく欠けると言わざるを得ず、全く説得力がない。本当にこれはひどい

もうひとつは佐藤優の語り口というか立ち位置。彼の「解説」は、特に第四部は、大川の論説を噛み砕いて説明しているだけなのか、佐藤が真にそう考えているのか、非常に曖昧な書き方をしている箇所が多くあり不愉快極まりない。

一方では大川が説く如く対支進出や対米英開戦は不可避であったと語り、一方ではそのような結論に至った日本の「自己絶対化」に警鐘を鳴らす。どちらが本当の佐藤優なのか、僕には見分けがつかなかった。彼が右にも左にもお呼びがかかる流行の論客であるのも肯ける。ただし僕にはひどい二枚舌にしか見えない。本当にこれはひどい

ということで怖いもの見たさの方を除き本書はおすすめできない。当時の軍部の主張を知りたいのであれば、前掲2書を読んだ方が遥かに得るものが多いと信じる次第。



同日同刻―太平洋戦争開戦の一日と終戦の十五日 (ちくま文庫)

同日同刻―太平洋戦争開戦の一日と終戦の十五日 (ちくま文庫)

激しくおすすめ。以前noguことおやっさんにすすめられて積んでいた本。これも良いタイミングで読むことができた。大変面白い。

対米英開戦の1941年12月8日と、終戦に至る1945年8月1日から15日までの、「同日同刻」の出来事を様々な記録から抜き出し配列したもの。

と書くと非常に客観的な記述が並んでいるように思えるかもしれないがさにあらず。山田風太郎の主観ももちろん入っている。このことは、本書後半、終戦に至る御前会議における阿南陸相の扱いを、同じ題材を扱った半藤一利の「日本のいちばん長い日」(asin:4167483157、後述予定)におけるそれと比較してみると良い。

尤も後者にも著者の主観が入っていることには疑いの余地はなく、そしてどちらが「正しい」記述であるかを言い切ることは誰にも不可能だろう。歴史は難しいと改めて思う次第なり。



昭和史探索〈1〉一九二六‐四五 (ちくま文庫)

昭和史探索〈1〉一九二六‐四五 (ちくま文庫)

昭和史探索〈3〉一九二六‐四五 (ちくま文庫)

昭和史探索〈3〉一九二六‐四五 (ちくま文庫)

昭和史探索〈5〉―一九二六‐四五 (ちくま文庫)

昭和史探索〈5〉―一九二六‐四五 (ちくま文庫)

激しくおすすめ。本屋で見かけていつか読んでやると思っていたのだけれど【長いもの好きのsvnseeds】思いがけなく早く読むことになった。昭和史に興味ある人は必読、と言いたいけれど、もしかしたらそうした人にとっては既知の話ばかりかもしれないな。

大正15年・昭和元年から降伏を迎えた昭和20年8月まで、各年毎に編者による解説の後、主に当時の一次史料の引用が並ぶ、という構成。もうなんというか無茶苦茶面白い。こういう本こそノートを取りながら読むべきなのだろうなあ。

しかしとにかく今年の夏はこればかり読んでいたような気がする。最近の文庫にしては字がわりと細かい、勅語やら法律やら日記やらが並んでいて難解な漢字や文語文が多い、などもあり1冊だいたい1週間くらいかかった。6冊で1ヶ月半だからそりゃ長い罠。

ところでこの6巻本のおかげで「西園寺公と政局9冊セット」(asin:4002031292)が激しく欲しくなってしまったのだけれど、ここにまで手を出してしまったらもうお終いという気がしなくもない。なんというか廃人というか人間失格というか、そんな感じ。って中古で安く売ってるの見つけたら買っちゃうだろうなあ。読むの2ヶ月くらいかかりそう。



本屋で見かけて勢いで購入。上述の6巻本と同期間における、流行・風俗等の紹介を中心とした小ネタ集とも言うべきもの。あまり重い話題がないので気軽に読めて楽しめる。6巻本の「余話として」で紹介されているものとの重複が目に付くけれども、昭和史オタクであればおすすめ。




ということで長くなったので今回はこの辺で。先にも書いたけれども半藤一利の本を読んでいると海軍・天皇好きになってしまうようで、今は昭和天皇関係の本ばかり読んでおります(幸い海軍関係は阿川弘之の「山本五十六」を読んだだけではまることはありませんでした)。次回はその辺の紹介が多くなる予定なり。ではごきげんよう