最近読んだ本 その6

最早全然最近でもなんでもなくなってしまったのだけれどとりあえずメモ。どれも内容ほとんど忘れているので簡単に。



岸信介政権と高度成長

岸信介政権と高度成長

おすすめ。今年前半の岸信介特集絶賛開催中(その1その2その3その4をご参照)にネットで買った本。ちなみに岸信介関係はまだ何冊か未読在庫があるのだけれど、現在は昭和戦前史関連ばかり読んでおり、更にその後たぶん明治の憲法制定時くらいまではさかのぼる予定のため、特集再開は来年初頭の予感。ってこのまま日本書紀までさかのぼっちゃったらどうしよう。わはは。

閑話休題。とかく外交方面に関しての話題が多くなる岸信介とその政権について、経済政策を中心に分析・検証した本。読んでいた当時は浅学にして存じ上げなかったのですが編者のひとり、中村隆英先生は日本経済史の碩学であります。って皆さん当然既にご存知ですかそうですか。

内容はもうほとんど忘れてしまったのでいずれ要再読。ほぼ唯一ちゃんと記憶に残っているのは第4章の当時日銀エコノミストだった吉野俊彦との対談。岸政権の池田隼人蔵相のときに公定歩合の上げ下げが大蔵大臣マターになってしまった(その後池田が首相になると同時に首相マターに)とのウラミツラミが書いてあり大変興味深いものがありました。

ああ現在の日銀の独立性へのこだわりの根はやはり相当深いものがあることであるよなあ、とつい遠い目になりました。当時の下村努との論戦もやはり独立性がらみであったのかと。ちょっとこのあたり整理してまとめてみたいところではあります。



ああこれも岸信介特集関連の本か。残念ながら全然おすすめできない。この著者はもうちょっとまともな人だと思っていたのでちょっとがっかりした記憶があります。

著者がこの安保闘争時に大学生だったこともあってか、本書の記述は終始pro学生運動+その他安保反対の皆さん、con岸内閣で著しくバランスを欠いているように思えてならない。しかもその理由が安保改定の中身にはまったく触れていない感情的なものとあっては、今の時代に、いや原著が出た1985年であっても、わざわざ本にして出す意味があるのか疑問に思わざるを得ませんよ。

要するに当時の学生のわけわからん主張、反対のための反対を繰り返してるだけのように思えてしまうのです。このテーマについてはもっと冷静な視点から書かれた優れた書籍があるだけに、かなりいただけないものを感じてしまいました。まあ未だに学生運動が大好きで岸信介を蛇蝎のごとく嫌っている方には良い本だと思います。

それと事実関係についてもいくつか他書籍の記述と相違ある点があったように記憶。今後この著者の本はなるべく読まないようにしようと思った次第。



「日米関係」とは何だったのか―占領期から冷戦終結後まで

「日米関係」とは何だったのか―占領期から冷戦終結後まで

あ、これも岸関連。確かどこかで評判を読みAmazonで購入。良い本なんだけどちょっとおすすめしずらいかなあ。

占領直後の吉田政権からだいたい70年代くらいまで(オビには「冷戦終結後まで」と書いてあるけど冷戦後は最後にちょっと触れてある程度)、日米の安全保障における関係をやたら詳しく書いた本。

米国の視点から書いてあるので初めて目にする事実も多く、すごく面白い。のだけれども、話が前後したり重複したりで、なんというか無茶苦茶読みづらいのが難点。

このテーマにすごーく関心を持っている方には問題にならないでしょうけど、正直僕には結構辛く、確か2週間くらいかかって読んだ記憶があります。時間かけると更に読みづらくなるという罠。再読はたぶんできない気がします。



秘密のファイル〈上〉―CIAの対日工作 (新潮文庫)

秘密のファイル〈上〉―CIAの対日工作 (新潮文庫)

秘密のファイル〈下〉―CIAの対日工作 (新潮文庫)

秘密のファイル〈下〉―CIAの対日工作 (新潮文庫)

おすすめ。文庫本は絶版みたいなので(ハードカバーは何故かまだAmazonに在庫があるみたいだけど)入手は面倒だなあと思っていたら会社のそばの本屋にてたまたま発見し購入。秘話系ってことで「『日米関係』とは何だったのか」と毛色の似た本。こちらは大変読みやすいです。特に陰謀論が好きな方には激しくおすすめです【お主もそうとはsvnseeds】。

でもなんか記述が妙にジャーナリスティックで(まあ著者はジャーナリストなんでしょうがないけど)、学者先生が書いたものと比べると踏み込みが浅い、厳密性に欠ける、取り上げる話題が派手なものに偏ってる観がある、といった点がちょっと気になりました【文句ばかりのsvnseeds】。

特に多用されている引用のソースがすべて巻末にまとめて記載されているのは大変いただけない。記述の真偽を検証しようと思ったらこれ全部にあたってみないといけないじゃないか!面倒でもすべての引用に注釈という形で出典を付けて欲しかった。せっかく充実した索引があるだけに非常に残念。



戦後日本外交史 (有斐閣アルマ)

戦後日本外交史 (有斐閣アルマ)

激しくおすすめ。なんだか秘話系の本に偏ってしまったのでちゃんとしたものを読もうと購入。読みやすいし内容も(そのカバーする範囲に比して量はコンパクトなのに)充実しております。

特に第2章の日米安保制定・改定のところは「日米同盟の絆」(asin:4641049769、僕の感想はここ参照)の著者、坂元一哉氏なので、ちょうど同書のconciseな要約になっており激しくおすすめです。

また、1960年代の高度成長を扱った第3章は外交だけでなく経済問題についても非常にバランス良く記述されており感動しました。担当著者の経歴を見るとLSE出身ということで納得。

こんな感じで外交・経済に加えて内政・思想も統一的に俯瞰できるような歴史の本ってのはないもんですかねえ。それぞればらばらに読んで自分で統合するのはちょっと疲れます。



聞き書 宮沢喜一回顧録

聞き書 宮沢喜一回顧録

90年代の証言 宮澤喜一―保守本流の軌跡

90年代の証言 宮澤喜一―保守本流の軌跡

戦後政治の証言

戦後政治の証言

宮沢喜一・全人像 (行研Political hopefulシリーズ)

宮沢喜一・全人像 (行研Political hopefulシリーズ)

つい突発的にはじまってしまった宮沢喜一特集関連。まだ5冊くらい在庫があるのだけれど前述の理由により一時休止中です。

どれも面白くおすすめですが(ただし最初の3冊はかなり内容が重複しているのでご注意です)、やはり一押は最後の宮沢自身によるサンフランシスコ講和と安保条約締結の内幕を描いた「東京-ワシントンの密談」。内容もさることながら、随所に突き放したようなユーモアが感じられて大変趣が深いです。どうしてこんな重要な本を絶版にするかなあ。

そういえば立花隆これを読んで怒りのあまり書きかけた宮沢喜一論がまだ完成してないや。もうちょっと寝かしてそのうち公開します【そんなのばかりのsvnseeds】。



昭和経済史 (岩波現代文庫)

昭和経済史 (岩波現代文庫)

激しくおすすめ。とにかく必読です。本エントリ最初に挙げた「岸信介政権と高度成長」とすぐ上の「聞き書 宮沢喜一回顧録」の編者のひとり、中村隆英先生による昭和60年(1985年)に行われた講義をまとめたもの。文庫版あとがきとして残りの3年ちょいについても簡潔に触れられています。

この後に読んだ「昭和史I」(asin:4492060588)でも感銘を受けたのだけれど、中村先生の著作は経済に限らず同時代の内政、外交、思想、そして個人的な体験も交えて記述されており、重層的な深みがあります。

ただ、「昭和史」ということなんで当然なんですが、ちょうどバブルのピークで記述が終わっているのが大変もったいない【無いものねだりのsvnseeds】。同じ視点からの平成デフレ期に関する冷静な分析を読みたいものです(「現代経済史」(asin:4000042238)がそれに該当するのかな?)。

そのうち「昭和恐慌と経済政策」を読むつもりなのですが、これも非常に楽しみです。機が熟したというか、長い間積んで寝かした甲斐がありました。日経文庫の「昭和経済史」も積んであるのでそのうちチャレンジしたいと思っております。





ということでこの中村先生の「昭和経済史」をきっかけに、以降はぐだぐだと戦前昭和史の本を読んで最近に至っておる次第なのですが、それについてはまた改めて。やっぱり読んだ直後じゃないとろくなこと書けないので近日中にまとめたいと思います。