最近読んだ本 その4

ということでまた溜まってたのをメモしてみる。だいたい1月頃に読んでた本が中心となります。やっぱりなんか気の利いたこと書いてやろうという下心を押さえつつ、さっぱりと。

「ニート」って言うな! (光文社新書)

「ニート」って言うな! (光文社新書)

例のアレ(笑)。本屋で山積みだったので購入。吉祥寺の啓文堂書店では(たぶん今でも)大フィーチャー中。

とりあえずこの本の主旨を僕なりに乱暴にまとめてしまうとこんな感じ。

1. 「ニート」という言葉は若年無業者問題を正しく捕らえていないだけじゃなくて間違った処方をあれこれ適用しちゃいかねない危うさがあるよ(第1部第1章)

2. 若年無業者問題を解決するには「教育の職業的意義」と「労働市場の流動化」の両方の向上が重要だよ(第1部第2章)

3. なんで「ニート」なんてアレな言葉が流行っちゃったかっていうと社会に憎悪が溢れているからでそれは行政による「教育」が悪いからなんでそんなのチャラにして「自由な社会」を目指そうぜべいべー(第2部)

4. アレな「ニート」論はこんな感じでマスコミによって広められたよマスコミってホントにアレだなあ(第3部)

で3と4についてはあんまり興味ないので(とはいえ内藤さんの主張は僕が高校生くらいだったら激しく同意していたに違いないとは思う)華麗にスルーして1と2についてだけコメント。

といっても1の点についてはもう既にあれこれ書いたし、正直その範囲を超えてないようにも思うのでこれもパス。あえて言えば、前に僕がここで書いたような、「若年無業者に関する調査(中間報告)」(以下「ニート調査」)における「非求職型」という分類の統計的な怪しさについてちゃんと触れて欲しかったように思う。

つまり、「ニート」に分類されるカテゴリで唯一増加傾向を示しているこの「非求職型」のうち、職に「すぐつくつもり」「すぐではないがつくつもり」と答えた者は調査対象の3期間とも約70%もいて、その70%分の人数を「求職型」の人数と合計すると、総務省統計局の労働力調査における完全失業者の数字とだいたい同じになるんですよ旦那。ニート調査と労働力調査における集計規準の違い(前エントリの脚注参照)からして、「非求職型」という分類は実際にはかなり怪しいものだと思わざるを得ない。と思う。という気がするんですけど気のせいですかそうですか。

で2の点なんだけど、結局ここで主張されている「教育の職業的意義」や「労働市場の流動化」をいくら向上させたって、本田先生が気にしてる就労機会や就労待遇の不平等はどうしても残ると僕は思う。また、そうした処方箋での問題の改善よりも、今あるデフレ不況を何とかする方が効率(つまり救われる若年者の人数の規模)は断然良い。更にいうと、根本的な問題(つまり不況で失業者が多い状態)が改善されていない状況で「教育の職業的意義」や「労働市場の流動化」をいくらいじったところで、問題はややこしくなるだけであって、悪くするとリソースの無駄遣いどころか問題を悪化させる可能性も否定できない。

要するに、現在の状況において、本来の問題である若年失業者・無業者対策としては、「教育の職業的意義」や「労働市場の流動化」の向上という打ち手だけを主張することは、効果は否定しないけれども相対的な効率において疑問であり、また問題を悪化させかねない点で「ニート」論者とあんまり変わらんのじゃないかなあと。

それじゃどうすんの、というと、結局景気回復と「教育の職業的意義」や「労働市場の流動化」の向上の両方をやんなよ、という話に尽きる。僕は別にミクロの不平等問題を放置して構わんと言ってるわけじゃないんで念のため。ただ、この本を読んでいるとマクロの視点への言及があまりに少ないために、どうしても説得力に欠けるきらいがあるのでそれが残念なことだよなあ(詠嘆)、というわけであります。

ってアレか、もしかして本田先生や内藤さんは、本気で不平等そのものを無くすことを目標にしてるんだろうか。なんか薄々そんな気もしてちょっと怖い。もしそうだとしたら話が噛み合わないのも無理はない。

リソースに限りがあり、人間の能力には個人差があり、更に個々人の望み、つまりインセンティブが異なる以上、不平等はどうしたってなくならない、と僕は思う。ちなみにこれら3つを「社会的に」なんとかしようとしたのが共産主義で、それは元々ダメだったからダメになったのだ。人間にできることは不平等を減らすことであっても根絶することではない。

根絶を目指す方が目標として高貴だったり、高い目標を掲げた方がなんとなく良さそうだったりするかもしれない。でもそれは間違いだ。間違った目標を掲げれば間違った処方が生まれるだけだ。間違った処方の実践でより困るのは常にそれ以前から困っていた人たちだ。いい加減こういう話はシェアされた方が良いようにつくづく思う。

ってまた長くなったので続きはまた。まったく反省が生かされませんですた。おやすみなさい。

【蛇足】
せっかくなので過去にニートについて書いたもののうち、主なものを以下に時系列でまとめておく。全部読みたいという奇特な人はこちらをどうぞ。

  • 上記エントリのコメント欄
    • 英国と日本のニート問題の違いについて。これも誰かちゃんと調べて書かないかなあ。「日本はやっぱり特殊でダメダメ」っていえる格好の材料なんでみんな喜ぶと思うんだけど。「ニート」って言うな!の第3部で挙げられていた「日本のニート・世界のフリーター」(ASIN:4121501977)が近いのかなと思ったけどどうも違うみたいだし。