続・マネタリーベースとマネーサプライの関係

ちょっと時間ができたのでマーケットの馬車馬さんbewaadさん空中戦にも例えられる(笑)、金融政策に関する議論(リンクはマーケットの馬車馬さんのもの)を最初から読んでみた。ていうかまだ途中なんですが。
で、まだ途中なのでこう言うのもどうかとも思うけど、この議論での大きなポイントのひとつは、マネタリーベース(ハイパワードマネーベースマネー)を増やしたときにマネーサプライも増えるかどうか、って点のように思われる。もし増えないんだとしたら、マーケットの馬車馬さんの言うように、現在のようなゼロ金利下において、日銀にはマネーサプライを増やす手段が何もないことになる。
マーケットの馬車馬さんはこの点を信用乗数と限界信用乗数を使って説明している。限界信用乗数がほとんどゼロ(2003年度で0.75)にまで低下したため、マネタリーベースの増加分がマネーサプライに与える影響が絶望的に小さい(ほとんどゼロ)になってしまった、という。
でもこれってほんとなんだろうか。マネタリーベースがマネーサプライに与える影響が「ほとんどゼロ」ってどういうことかというと、日銀がいくらお金を刷っても「ほとんど」インフレにならないってことだ。それこそ無税国家誕生で、政府の借金を日銀のピン札で棒引きしても「ほとんど」問題なし。財政赤字年金問題も一挙に解決。それどころか、世界中の資産を買いまくって日本人は全員寝て暮らせることになる。いやいやそれどころか世界中の人にお金を配りまくって世界の貧困問題も解決だ。いえーい。
ってもちろんこれはあり得ない。ということをこの前このグラフこのグラフを使って説明してみたつもりだった。特に後者で明らかなように、傾きが寝てしまっても水平ではない(ましてや逆の傾き(!)でもない)ので、ここから量的緩和は有効だいえること示せる。と思っていた。でもやっぱりこれじゃわかりにくいみたい。
なのでもうちょっと別の方法で図示してみたのがこれ。先のグラフと違い、成長率ではなくマネタリーベースとマネーサプライの数字をそのまま散布図にしたもの(単位は億円)。前回と同じく、プレバブル(1970年1月〜1989年12月)、ポストバブル(1990年1月〜1999年1月)、そして量的緩和後(1999年2月〜)の3つのタームで区切ってみた。
で、このグラフの傾きが、マネタリーベースに対するマネーサプライの増加分を示すことになる(要は信用乗数を別の角度から見てるだけ)。こうやって見てもその係数、つまりマネタリーベースを1円増やしたときにマネーサプライが何円増えるか、が低下傾向にあるのは明らかで、上の3つの時代区分でいくと、順に12.9、5.6、そして量的緩和後は1.4にまで落ちている。現在の金融政策は、プレバブル期の約1/10の効き目しかないわけだ。うわー大変だ!なんだろうか。
僕はそうは思わんのですよ。この係数が1より大きいってことは、要するに、マネタリーベースを増やせば、少なくともその増やした分は、マネーサプライも増えるわけだ。当たり前だけど。そして仮に係数が1より小さくなったとしても、0やマイナスにならない限り、マネタリーベースを増やし続ければマネーサプライは増えるわけだ。そしてこの係数が0やマイナスであり続けることはあり得ない。
要するにマネーサプライを増やしたければ量的緩和をもっともっと推し進めろってことだ。例えゼロ金利下であっても、日銀がマネーを供給すればそれが市中に出てきているというのは観察できる事実なのだ。そしてここで日銀がインフレ率にターゲットを設定してそれにコミットすれば、期待によるレバレッジがマネーの流通に対して働くだろう。いったんプラスのインフレ率になれば、後は日銀の大好きな「通常の」金融政策を行えばよい。
ということで、日銀にやれることがないなんてとんでもないと僕は思う。「我々はできるだけのことをやってます」なんて顔をされると腹が立ってしょうがないのだ僕は。いい加減にしてほしい。どうすか。
【追記】
上記のような「とにかく量的緩和」という結論はトップダウンのアプローチから出されたもので、金融の細部をまったく考慮に入れていない。だからマネーの経路が不明だとか、日銀金庫にブタ積みされたマネーがどうして意味を持つのかわからないとか、挙句には短資会社の商売の心配までして「細部が大事」って反論する人が多い。
インタゲ/リフレ派と反インタゲ/反リフレ派の言い争いは犬も喰わないのだけども、こうした不毛さの大きな原因のひとつに、この(トップダウンボトムアップという)アプローチの違いがあるのではないかと思うようになった。
というか、実はリフレの話だけじゃなくて、id:Ririkaさんのところの分析哲学と大陸哲学の対立や、例の君たちは政治が好きすぎる話もこのアプローチの違いによるものだと思ってたり。これについては長くなるのでまたいずれ。
あ、あと「とにかく量的緩和」への反論は「そそそそんなことしたらハイパーインフレが!」ってのもあるなあ(笑)。これについても今度なんか書こう。