経済学史の本2つ

「入門経済思想史 世俗の思想家たち」ロバート・L. ハイルブローナー(ASIN:448008665X
「ライブ・経済学の歴史」小田中直樹ASIN:4326550465
思うところあって経済学史の本を読んでたりして。僕はこの順番で読んだんだけど、普通は逆の方がわかりやすいと思います。ていうか失敗したなあ(笑)。
ハイルブローナーの方は長くて詳しくて歴史順に説きおこしたスタイル。とっても面白いのだけど、僕から見ると社会主義にちょっとfavorable過ぎかな、とも思ったりしました。まああのへんの挫折を知らないとまた同じことを繰り返すことになってしまうので、詳しく書く必要があるとは思うんですけどね。WTOに反対したりこの世は搾取で成り立ってると考えたりしちゃう人は第5章(ユートピア社会主義者たちの夢)を読むと良いかもしれません。
あと、特に最終章に顕著なんだけれども、実証的な主張と規範的な主張に対する要求をごっちゃに書いているように思えてそこが気持ち悪い。僕は経済学そのものは(どころか、どんな科学であれ)規範的な主張は行えないと考えているので、そんなもの求められても困っちゃうよなあとしか言いようがない。まあ良くある誤解で、ハイルブローナーはわざと書いてるんだろうけども。っていうか僕は経済学者じゃないので困る筋合いもないんですが。わはは。
なんにせよ、記述が詳しいだけに、ちゃんとした経済学の教科書の副読本として読むべき本だと思いました。この本だけ読んで経済学がわかったつもりになってしまうと危険だと思います。
一方の「ライブ・経済学の歴史」の方は(歴史の本にしては)変わった章立てで、過去から未来へ線形に並べるのではなく、「教養としての経済学」にとって重要と著者が考える、7つのトピックについて順番に説明するというスタイル。これは成功していると思いますね。読んでいて非常に面白いしためになる。ちなみにその7つのトピックとは以下の通り。

  • 分配
  • 再生産と価値
  • 生存
  • 政府
  • 効用
  • 企業
  • 失業

で、不満な点というか、これはまあ副題が「経済学の見取り図をつくろう」ってなっているのでしょうがないというか狙い通りなのだろうとは思うのだけど、各章尻切れとんぼというか、で結局なんなんですか?というところが全くないまま終わっていてかなり肩透かし感ありまくりなところがちょっとアレです。
なので、お勧めの読み方として、序章を読んで、次に最終章を読んで、あとは各章読み終わったら最終章の該当項をもう一度まとめとして読む、という順番を提案したい【誰に向かってsvnseeds】。実際、最終章のそれぞれトピックの「アクチュアリティ」に関する記述は、各章の最後と最終章と2ヶ所に重複してあっても良かったんじゃないかなあ。
あと、最終章の財政政策と金融政策に関する記述はぴんとこなかった。財政政策があまり実施されなくなってきたのは、財源が乏しくなってきたからというよりは、単についこの間まで小さな政府が流行ってたから、だと思うんだけどどうかなあ。それと金融政策に関して新古典派ケインズ派の主張がぶつかるのは「今どうしたら良いか」という規範的な主張についてであって、金融政策の結果、長期/短期で経済がどう動くかに関してはそれ程主張が異なるとは思えない。んだけどこれもどうなんだろうか。まあ短くまとめるんだからあの記述でも良いのかな。
でもそういう細かい点はほんとはどうでも良い。「経済学は金儲けの学問」とかひたすら間違った(しかし良くある)誤解を持っている人にはまずもって最初に読むべき本だと激しくお勧めします。経済学とはこれだけ身近で多様なテーマを扱っている学問なんだってことが良くわかる良書です。ぜひぜひ。ってあんまり売ってないんだよなあこの本(笑)。