「世界を動かす石油戦略」石井彰、藤和彦(ASIN:4480059857)

id:kmiura氏のリクエストにお答えして。既に方々で言及されている本なので、僕が受けた印象に基き主観的に、且つ本が手元に無いので記憶で書きます。なのでおかしいなと思ったら実際に読んでもらうのが一番なのでよろしく。
まずこの本の最重要な主張は「石油は戦略商品でなく市況商品である」ということ。つまり石油は、小麦や銅などと同じくどこで採れるかによって価値が変ることの無い、コモディティであるということです(もちろん産油地によって原油のクオリティが違うらしいけど、それは製油コスト、ひいては採掘コストの話になる)。
これが意味することは重要で、例えば戦前の日本が南シナへ出て行かざるを得なかった時代とは状況が違う、ということになる。つまり今は市場があるので、どこで採れた石油かなんて関係ないのだ。仮に中東を支配下に置いてそこの石油資源を独占しても、そこで採れる石油が市場価格よりも(トータルで見て)コストが嵩むようだったらしょうがない(この辺の話は極東ブログさんのここ参照)。
じゃなんで米国はパパブッシュの時代からイラク周辺にご執心なんだ、って疑問だけど、これは正直僕には良くわからない。この本では市場を維持するためには中東の政治的安定が重要、と言っていて、確かにそれそれでは一理ありまくりなんだけど、一方でそれだけじゃパズルは解けない気がする。
ただひとつ言えることは、米国は国の戦略として中東を重視しているわけではなさそうだ、ということ。つまりブッシュ家のビジネスがらみなんじゃないの、って言ってるわけだけど、この辺になると陰謀論が入ってきてわからなくなる。昔の本とか読んでるんだけどやっぱり良くわからない。まあ米国は長い目で見るととてもバランスのとれた国だから、そのうち色々と出てくるでしょう。甘いかな。
で、石油埋蔵量の話。僕はこの点に関しても非常に楽観的です。石油は市況商品だから、当面の埋蔵量は何より採掘コストとの兼ね合いで決まってくる。技術的な進歩はこの採掘コストを下げることで埋蔵量を増やす。実際に米国では、原油価格が高止まりすると国内での採掘量が増える。採掘コストが高い国内油田でも採算に合うようになるからです。
実際このことを考えると、石油というのは採掘され尽くされることは無い、という議論が成り立つ。確かに石油の埋蔵量は有限だけど、石油が希少になればなるほど、その価格は高騰する。いずれどこかのタイミングで確実に、今はコストが高すぎる代替エネルギーが総コストを下回ることになる。かくして石油は、最初は高すぎるから、その後は利用価値がないから、採掘され尽くされることは決してない。ということで、石油の埋蔵量を心配しなければいけないのは石油関連企業だけじゃないかと思うわけです。
じゃその代替エネルギーはどうすんの、という話。考えなくてもすぐわかるように、これは巨大なビジネスなんで、その開発はほっておいても誰かがやるので別に国策としてやる必要なんて無いんじゃないかと僕は思う。呼び水として(インフラ整備などに)国がお金を出すってのはありかもしれないけど、それ以上はむしろ無駄じゃないか。つまり国が税金で山師をやる必要はないんじゃないかと思う。
というとすぐに、例えば米国やロシアや中国がその代替エネルギーを押さえてしまったら日本はどうするんだ、って話になりそうだけど、それは杞憂だろう。そもそも一国だけですべてのエネルギー資源を独占すると言うのはあまりに荒唐無稽だ。いくつかのグループが寡占することはあるだろうけど、そうなると今の石油と同じ状況で、不安定ではあっても市場が成立するわけだから、供給に問題はない(供給が安定するかどうかは別問題だけど、最悪でも今と状況は変らないだろう)。もっとあり得るのは、今の石油と違って、国でなく企業が寡占することだけども、そうなればますます今の地政学的・戦略的な議論はあてはまらなくなるだろう。
ということで代替エネルギーに関して、日本は、国としては、初期開発投資はどこかにやってもらって、安く安定したところで乗り換えれば良いんじゃないの、と思う訳です。もちろん企業としては、どこの国の企業に限らず、自らの儲けのためにがんがん投資すべきだけども、それは上にも書いたように、外野が言わんでも勝手にやるでしょう。これも甘いかな。
ひとつ心配なのは、石油から代替エネルギーへの転換が起こる最初の段階では、エネルギーコストが相当高くなる可能性があること。つまり石油の枯渇がいよいよ見えてきて原油価格が高騰しているのだけど、代替エネルギーのコストも未だ非常に高価である、という状況。そうなると間違いなく世界的な大不況になる。望むらくは代替エネルギーのコストが速やかに下がらんことを。ってやっぱり甘い?
最後にひとつ良いニュースを。未来のエネルギーヘリウム3。「第六大陸」(ASIN:415030727X)と言うSFそのまんまです。こういうニュースを読むと、中国はやっぱりすごい国だなと思う。国が出張るからにはこのくらい大きなスケールじゃないと意味無いでしょう。日本はこういう大きな構想をするべきだ、という意見には激しく同意します。ってなんか上に書いたことと矛盾してるな。まあいいや。わはは。