もう日本ダメだね

数字だけの遊びであれば、例えば名目成長率15%という想定で計算すれば日本の財政はあっという間に解決する。ただ、国民の生活にとって物価が安定していることはとても大事だ。名目成長率を上げれば、確かに財政には寄与する。しかし、名目成長率をあげていけばいいというインフレ政策、悪魔的な政策は国民には迷惑な話だろうと思う。やはり地道にやっていくしかない

引用は与謝野馨官房長官の9/3のインタビューより。ロイターの記事が魚拓で読めます。魚拓のリンクはいちごびびえす経済板のこのレスより。どなたか存じませんがありがとうございます。

すでにbewaadさんecon-economeさんの素晴らしいエントリがありますので今更僕が付け加えることはありませんが、あえて2つだけ、明らかにおかしい点について書いておきます。

ひとつめは冒頭の引用について。確かにインフレによる物価の上昇は国民にとって迷惑な話であるのは間違いありません。しかしながら、15年間にも亘る経済停滞と、その結果としての若年層の就業機会の逸失、自殺者の増加、貧困層の拡大(「格差」問題ではない!)等の問題は、インフレ以上に国民に迷惑(どころか前2者は取り返しのつかない問題)であることは間違いないと僕は考えます。

そして、この長期経済停滞が生じている主要な(百歩譲っても少なくとも1つの)原因は、実質成長率ではなく名目成長率が低いことであることは、国内外の経済学者が既に散々指摘し続けていることです。

ふたつめは冒頭の引用に続く以下の発言について。

名目成長率を上げるためには、実質成長率を上げなければいけない。口で言うのは簡単だが、日本のように成長しきった国が背丈を伸ばしていくのは簡単なことではない。

この点、econ-economeさんの素晴らしいエントリ(必読です)にある実質GDP成長率の国際比較をみればはっきりしますが、日本以上に「成長しきった国」である米英英国*1が、この10年間に日本以上に成長しているのを見ればこうした認識がいかに誤っているかはすぐにも了解できると思います。



実際のところこの2点だけでもう十分なんですが、どうしてこんなに現状認識がおかしい人物が官房長官という要職につくことができるのか、僕には本当に理解しがたいです。・・・というのは実は修辞的な表現で、結局のところ国民の多くの現状認識がこの程度なんだろうなと理解する他ないのでしょう。

この点について救いがたいと思うのは、インフレではなくデフレによってもっとも被害を被る資産を持たない若年層や貧困層もこうした現状認識であるように認められる点です。インフレが一番「迷惑」なのは資産家なんですけどね。

あとは「実質」「名目」という用語も影響しているのかなあとちょっと思いました。貿易や国際収支の「赤字」「黒字」と同じで、イメージだけで「実質=重要」「名目=見かけだけで重要でない」という認識になってしまっているように思えます。というか逆にそういう誤解でもしていると考えない限りこの官房長官の発言は理解しがたい。

何にせよ個人的には、もう本当に日本はダメだなあと思いました。15年も同じことばかりやっている。根っこにあるのは反知性主義的な感情で、これは実は戦前から変わっていない。悪いことに、不景気が続くことでこの感情はますます多くの人々を引きつけて行く。これから日本がどこへ向かっていくかはわかりませんが、何れロクなものではないでしょう。真に自業自得と思います。

*1:コメント欄アカデミアさんのご指摘に基き修正

インフレが一番「迷惑」なのは資産家

上に書いた、

> インフレが一番「迷惑」なのは資産家

に関連して、バフェットの発言を引用しておきます。

インフレーションが歴史上最も重い税金であることは、ちょっと計算すればすぐにわかります。このインフレ税は、資本を食いつぶすという素晴らしい能力を持っています。例えば、ある未亡人が財産を5%の定期預金で運用するとしましょう。インフレ率がゼロ%で、その利息収入に100%の所得税がかかるとすれば、未亡人は所得を得ることができません。

しかし所得税を免除されたとしても、インフレ率が5%であれば、やはり未亡人の所得はゼロです。利息収入は得られますが、元金が5%目減りするために、差し引きでゼロになってしまうからです。しかも、人はこのインフレ税を見過ごしてしまう傾向があります。この未亡人も、所得税が120%になれば怒り出すでしょうが、5%のインフレが経済的に見て同程度の悪影響を及ぼすことには、おそらく気がつかないでしょう。
(pp.6-7)

バフェットの投資原則

バフェットの投資原則


これを読んで「ほれ、インフレはやはり悪魔的(略)」と考えるのは大間違い。何故ならまったく正反対のことがデフレーションの状況において言えるからです。

デフレに際しては、資産家は利子収入に加え、デフレ分の実質的な資産の増加をも得ることができます。つまり、2%のデフレの場合、資産家の元金は実質的に2%増加するわけです。

さてここで、10年の長きに亘りデフレであった日本において、仮に増税を行うとした場合、

a. どんな可処分所得レベルの者であっても等しく負担することになる消費税

b. 今までデフレにより恩恵を受けてきた資産家へより多く課税することになる「インフレ税」

のどちらがより望ましい方法でしょうか?もちろんこれは修辞的な疑問文です。