フランスとスペイン−国民投票を決めたもの

フランスがEU憲法にNonらしい。これだけだとふーんなんだけど、昨日の日経夕刊を見て、EU憲法国民投票を経て批准したのは今のところスペインのみと知って大変興味を持った。同じ国民投票というプロセスを経てこの結果の違いを生んだものはなんだろうか。時間もないし面倒でもあるので箇条書きで書いてみる。結論から言うとユーロ加盟後の経済パフォーマンスの違いが大きな原因(の少なくともひとつ)だろう。

  • 1999年*1以降の事後的な実質金利*2を見ると、フランスは常にプラス、スペインは1999年を除きマイナス
  • 実質GDP成長率をITバブル崩壊後の2002〜2004年の平均で見てみると、フランスは1.4%、スペインは2.9%
  • 失業率の変化をユーロ加盟前の1995〜1998年平均と2004年とで較べてみると、フランスは1.6%低下、スペイン6.4%低下
  • 政府債務残高の対GDP比率の1995〜1998年平均と2004年の比較では、フランスは8.0%増、スペインは16.9%減少

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ということで、1999年のユーロ圏での金融政策の一本化以降、フランスにとっては失業率がちょっと下がったくらい(1995年に11.1%もあったのをお忘れなく)で、後はどの指標をとっても良いことが全然無い。

一方のスペインは実質GDP成長は安定してるし(2001年を除く)、失業率も政府債務残高も大幅低下で良いことずくめ。そりゃ国民投票の結果も違ってきます罠。

で、このパフォーマンスの違いはどこからくるのかと言うと、各国のインフレ率の違いによる実質金利の差からだろう。通貨統合により金融政策に各国の独立性がなくなった結果、欧州中銀が決定する短期金利が、国によって引き締めを意味したり緩和を意味したりすることになったわけだ。

欧州中銀の金融政策がfavorableだったのはスペインの他、ポルトガルアイルランドがある。ポルトガルはイマイチだったようだけどアイルランドにとってはユーロ加入は今のところ正解だったみたい。どちらも今後の国民投票の結果が楽しみではある。

ということで、とりあえずのざっくりとしたいい加減なまとめとしては、

  • 景気の動向(実質GDPや失業率)には実質金利の動向が重要であること
  • 財政再建はまず景気回復から(笑)
  • 景気が悪くなるとどこも似たような政治的な話になること(id:fenestraeさんの5/28日付エントリ参照)。先日「国家の罠」に絡めて書いた日本の向かっていく方向に感じる不安と同じものが感じ取れるのが興味深い

といったことが言えるのではないかと愚考する次第でございます。詳しい方補足おながいします。

以下蛇足。僕はユーロ統合には非常に悲観的でして*3、その最大の理由が上に挙げたような金融政策の不自由さが招く景気動向の各国の不平等だったりします。財政規律を重視するあまり、今まで規律を守っていた国が結果としてひどい仕打ちを受けるような結果になってしまっては長く持たないに違いないと。

ここでは取上げなかったけどドイツなんかユーロ統合でホントに踏んだり蹴ったりですよええ。国民投票しないで議会だけで承認して正解ですな*4。これで東欧がユーロ参加した日にゃ現加盟国は揃って今のドイツやフランス並みにひどいことにならんかと本気で心配してしまう。ていうかドイツ国民がブチ切れて変な方向に行きはしないか割と本気で心配してたりして。洒落になりませんかそうですか。

*1:各国の独立した金融政策が行えなくなった年

*2:(事後的な)実質金利名目金利−インフレ率。もちろん本当は期待インフレ率を使って事後でなく期待実質金利を見るべきなんだろうけど面倒なので略。ちなみにユーロ加盟というイベントは誰がどうみてもわかりやすい予定されたものなので、期待実質金利は事後的な実質金利とそれ程差はないのではないかと思うんですがどうでしょう

*3:数年前までは単純リベラルだったので大賛成だったのは内緒w

*4:ていうかシラクは何考えてるかわからん。議会を説得できなかったんで結論を国民に押し付けたのかな?でなければ単に読み筋が悪すぎるのか?どっちにしろ誉められたものではないように思う。ってシラク嫌いなだけですかそうですか