「ドル独歩安」について

切込隊長このエントリに関連したid:finalventさんのリクエストにお応えして。ま大したこと言えないっていうかいつもと同じことしか言えませんが。わはは。

まず介入にあんまり意味がないってのはその通りで、ていうか介入単独では意味がないというか。自国通貨安を目指しているんだったら金融緩和とセットじゃないといけないし、その逆だったら逆。この辺のことは前財務官の黒田さんとか溝口さんは良くわかってたみたい。

一方、自称ミスター円がこの辺のことをどのくらいわかってたか良くわからんけど(でもヴィクトリアデフレがどうとか言ってたからたぶんマクロ経済のことは全然わかってないんだろう)、彼が介入を政治的パフォーマンスとして利用し大いに成功を収めたのは事実でしょう(こんなのもあるけどw)。

だから隊長の、

ではなぜ政府が為替相場に介入を試みるかと言うと、政治的な問題である場合が多い。

については特に言うことありませーん、て感じでございます。わはは。実際、日銀が動かないままの財務省単独の介入はただの政治的パフォーマンス以外のナニものでもないでしょう。もちろん政治的パフォーマンスが為替レートに全く影響しないわけではないので念のため、ですが。ていうかむしろ短期的には大いに影響するんでしょうな。

一方で、隊長が書いていることで気になったのは「輸出企業の行動(無行動?)が円高圧力を生んでいる」ってとこと「円圏がなんちゃら」のところ。この辺はマーケットの馬車馬さんこのエントリへコメントとして書いたので良かったら読んでみてくださいまし。

あとちょっと時間があったんで隊長のところのコメントもちまちま読んでみたのだけど、86氏と87氏がお薦めしているリンク先がかなり面白かったのでそれぞれコメントしてみようかな。

まず、86氏が挙げているコレなんけど、なんというか、全編君たちは政治が好きすぎるの好例っていうか、えーと、ダメダメ杉。後半は例の「石油・ドル本位制の終焉?」そのまんまだし。って時期的にはこっちが元ネタか(笑)。スティグリッツがそんなこと言うわけないでしょ、とかつっこみどころ満載です。マクロの問題を部分均衡で考える危うさの見本市とも言っていいだろうなあ。

一応、この記事がどれだけデタラメかちょっとだけ挙げとくとですね、

過去プラザ合意では、米国の意向としてのドル安政策でドル水準を1/2にして、日欧のもつ債権の実質的価値を半減することもできた。

なーんて書いてるけど、それ、円だけですから。欧州通貨に対してはドルは上がって戻っただけですから!(笑)。いや確かに1985年から見ればドルはユーロ(ていうかECU)の約半値になってるけど、1980年から見たらドルはユーロ(ていうかECU)に対してむしろ強くなってるんですよー(すいませんグラフひっくり返してるの忘れてました。わはは)。・・・って説明すんの面倒なんで次の3枚のチャート見てください。ドルのは主要国通貨に対する実質実効レート、円とユーロ(ていうかECU)のは面倒なんで名目のままの対ドルレートです。あ、ユーロ(ていうか略)のグラフはわかりやすいようひっくり返してますので念のため。

The Dollar Dances

... While the Yen Continues to Slide ...

... and the Euro (Ecu) Dances with the Dollar

ここで重要なのは、1985年からと2002年からの2回のドル安は、一方的に起こっているのではなく、その前にほぼ同程度のドル高があったということ。一方的に見えるのは円ドルのレートだけを見てるからですよね。上のチャートを見比べれば「ドル暴落」とか「覇権国家基軸通貨うんぬん」が寝言だってのがわかると思うんだけどなあ。

更に重要なのは、1980年代のドルのダンスはちゃんと長期実質金利差やらなんやらで説明がついちゃうこと(ブランシャールのマクロ上巻(ASIN:4492312609)14章参照)。つまり、1980年代前半の米国の金融引締めと財政拡張のセットで引き起こされたドル高をなんとかするためのものがプラザ合意だったわけです。プラザ「合意」って言うといかにも政治が経済を動かしているように見える(ために上のような無茶苦茶な陰謀論がソレっぽく聞こえる)けども、実はプラザ合意で一方的なドル安が起こったなんで思ってんのは日本人だけなんでご注意ですよ。

で、現在の「ドル安」ですが、僕がよくわらかんのは今のドル安じゃなくってそれ以前、つまり1995年から2002年までのドル高の方なんです。ちょっと勉強中なのでここはまだ保留なんですけど、どうも長期実質金利差では説明できないっぽい感じ。年末年始に教科書読んで調べものする時間がとれるといいなあ。わはは。

あ、このドルの実質実効レートのチャートを見れば、「米国がユーロをハメようとしている」って見方がアレなのはご理解いただけるんじゃないかと。てゆうかユーロ圏がもし自国通貨高を嫌うのであれば単純に金融緩和すれば良いだけの話なわけで、それが現状出来ないのは圏内のインフレ率がまばらでデフレ寸前とバブル寸前の国がごっちゃになってるからに他ならない。こう言っちゃアレですがはっきり言って単純な自滅ですよはい。

ちなみにユーロ圏が本当にめでたく統合するためには、今ディスインフレ気味の国(主にドイツやフランス)が、がんがん無責任に財政政策を発動して期待インフレ率を他国とそろえないとダメなんじゃないかと思う次第。つまり、現状期待インフレ率が高い国(スペインなんか)は、ユーロのせいで既に金融政策の自由度が縛られており、更に財政を減らすのにも限度があるので期待インフレをどうこうする余地があまりない。だったらどうこうできる余地が高い、つまり期待インフレ率が低い国があわせるしかないじゃないか、と。まこれは別の話なのでもうちょっとちゃんと考えていつか書きます。ていうか誰かこれをテーマに論文書いてるに違いない。

話戻って陰謀論。だいたい自国通貨を安くして他国をはめるってのはトンでもなく難しい上にリスキー極まりないと思うんだけどなあ。為替レートってのは内生変数なので直接はいじれない。うまくいじれたとしてもコントロールできるかどうかは別問題。ていうか無理でしょう。失敗したら世界経済の前に国内経済が大混乱です。こんな諸刃の剣みたいなことやってまで得たいものってなんなんでしょうかね?先の大統領選を見てれば政府がどれだけ国内の景気が良いことを重視しているか、わかろうというものなんですけど(ただし「経済政策」を重視しているとは限らないというところが趣き深いところだったりして)。

最後にもう一個の、87氏が挙げているこれは例の今年3/4のグリーンスパン講演のまとめなんだけど、これどっから読んだらそう読めるのか不思議なくらい間違ってるなあ。ていうか日本のエコノミストはこう読むんだなやっぱり。この講演については以前、ブルームバーグのダメダメな日本語報道に興味を持って(案の定記事読めなくなっちゃったので日本語記事英語記事を晒しておきます。読み比べてみましょう)、ちゃんと全文を読んでまとめたことがある(finalventさんのところにw)ので、興味のある方はどうぞ。しかしやっぱりこの講演、誰かちゃんと訳さないといけんのじゃなかろうか。山形さんどうすか(嘘です。すいません)。
あ、前にbewaadさんからご紹介頂いた、溝口さんの「為替随感」がこの辺の良いまとめになってるように思うのでこちらも是非どうぞ。前半は当り障りのないこと書いてますが後半は結構過激です。グリーンスパン講演に関してもなんにしても僕(というか、たいていのリフレ派)と同じ読みだったりします。

ってうーむ、勢いでわーっと書いちゃったのでなんか重要な論点を逃しているような気もするけどまあいいや。
・・・ていうかなんか間違ったこと書いてそうなのでがんがんご指摘頂きたく。よろしくおながいします。