「双子の赤字」って言うの、そろそろやめません?

今日の日経でもそうだけど、ドル安とのからみで米国の「双子の赤字」がまたぞろクローズアップされてきているみたい。しかしこの「双子の赤字」ってのがどれだけいいかげんな概念だか、ちゃんとした説明がされているのを見たことがない。

双子の赤字」ってのは米国の経常収支と財政収支の赤字のことを言う。経常収支とは大雑把には「輸出−輸入」のことで*1、財政収支とは「租税−政府支出」のこと。米国は80年代より、このどちらの収支も大幅な赤字で推移していて、いつしか「双子の赤字」と呼ばれるようになったのはご存知の通り。

Balance on Current Account and Treasury Budget

Balance on Current Account and Treasury Budget, % of Nominal GDP

でも実はこれらの赤字を「双子」と言ったり、甚だしくは「足していくら」と言ったりするのはとんでもないデタラメなのだ。どうデタラメかは、経常収支に関する恒等式(つまり定義)を見れば明らかだろう。

経常収支=国内貯蓄・投資バランス+財政収支

つまり、経常収支と財政収支の赤字を「双子の赤字」だって言うのは、例えば貯金100万円、住宅ローン3,000万円の家計に対して、「住宅ローン3,000万円と純資産マイナス2,900万円の双子の赤字」って言ってるのと同じことになる。こんなデタラメ言われたら誰だって怒るだろう。原因と結果をダブルカウントするような馬鹿なマネは普通しないのにどうしたことだろう。

挙句に、この2つの収支を足し合わせて「こんなに大きな赤字は維持できるわけがない」なんていうデタラメを言う連中もいる(誰とは言わんけど)。もうアホかと。クビですよクビ。

とにかく、今後「双子の赤字」がどうした、とか言ってる連中がいたら後ろ指さして馬鹿にしまくりましょう、ということで。ひとつよろしくお願いします。

ちなみに、米国の経常収支が赤字だとどうしてドルが安くなるのかというと、ドル安により輸出を増やして経常赤字を減らそうというインセンティブが働く(と市場が予想する)からだ。一方、ドルが他の通貨(例えば円)に対して安くなるのは、ドルの方が円よりも多いからだ。そして何故ドルの方が円よりも多くなるかと言うと、米国の方が日本に比べ金融を緩和しているからに他ならない。

要は今のドル安は2000年以降の米国の無茶苦茶な金融緩和と財政支出の結果に過ぎない。既にFRBは引き締めに動いているし、Jカーブ効果により遅れてやってきたドル安による輸出の増大はこれからじわじわと効いてくるだろう。まあこれらの経常赤字削減効果が、財政赤字に関して無関心なブッシュ政権が続くことでどれだけ発揮されるかはなんとも言えんけど。

で、もしドル安で日本が困るのであれば、日本ももっと金融を緩和すれば良いだけの話なのだ。通常、こうした通貨drivenの金融緩和政策(つまり国際均衡を国内均衡よりも重視すること)はインフレの縛りがあり行うことは難しい。

例えば、ユーロ圏は通貨統合により各国が自由に金融政策を行う余地がなくなってしまった。だから、今回のドル安に対抗して緩和を行うと、ドイツやフランスなどの低インフレ経済は恩恵を受けるだろうが、既にバブル気味のスペインなどではひどいインフレが進行してしまう。ECBはその点を非常に気にしていて、更に日銀のようにインフレ防止には過剰な思い入れがあるために、緩和には動きにくい。だから彼らが米国の経常赤字を非難する(つまり財政赤字を何とかしろと言う)のは、まあわからんでもない。

でも日本は現状デフレだ。そして世間で言われているのとは逆に、デフレはこれから更にひどくなるだろう。だから何も気にせず緩和しまくれば良いのだ。とりあえず、昨年春のように介入+当座預金残高引き上げのセットでもやれば良い。

ってどうせまた、景気が誰の目にもひどくなったとわかるようになってからしか動かないんだろうなあ・・・_| ̄|○

*1:正確には「輸出−輸入+サービス収支+所得収支+経常移転収支」が経常収支。詳しくはhttp://d.hatena.ne.jp/svnseeds/20040805#p1をご参照