金利とキャリートレードと為替の動き

韓リフ先生のところで紹介されていたサンフランシスコ連銀のキャリートレードに関する論説「Interest Rates, Carry Trades, and Exchange Rate Movements」を全訳してみました。面倒なので今回は一切許可とってません(笑)。

突貫で訳した(現実逃避w)のと原文が非常に難解*1なのとで変な訳があるかもしれません。例によってお気付きの点がありましたらコメントいただければ幸いです。

FRBSF Economic Letter
Number 2006-31, November 17, 2006

金利キャリートレードと為替の動き

米ドルは最近になって主要な通貨に対し著しい動揺を見せている。例えば、米ドルは2005年に円に対して18%、ユーロに対しては13%増価したが、一方で2006年の3月から5月にかけてはこれらの通貨に対して急激に減価し、その価値のほぼ10%を失った。多くの観測筋はこうした動揺をキャリートレードとして知られているものと関連付けている。キャリートレードとは、国際金融市場の投資家たちに広く用いられている、国家間に存在する金利差を利用する戦略だ。

金利平価条件の理論が示唆するところではこの戦略は予測可能な利益を生まないはずなので、投資家たちがキャリートレードを用いるのは不可解なことだ。このEconomic Letterではこの謎を探るため、まずキャリートレード取引のしくみについて説明する。その後、キャリートレードの利益特性についての実証研究を概観し、こうした戦略がどのようにしてここ数年の為替の動揺と関連し得るのかについて検討する。最後に、キャリートレード戦略の規模についてのいくつかの証拠を提示する。

キャリートレードとは何か?

キャリートレード戦略の最も一般的な形態では、投資家は低金利通貨(「調達」通貨)で借入を行い、その資金を高金利通貨(「目標」通貨)に転換し、目標通貨で高い金利にて貸し付けを行う。

キャリートレードの別の形態では、ある通貨の別の通貨に対する先物プレミアムを利用する。先物プレミアムとは、基本的には2つの通貨間の先物為替レートとスポット為替レートの差額(パーセント)のことだ。より具体的には、2つの通貨間の先物為替レートとは、将来の特定期日に引渡されるある通貨1単位で購入できる別の通貨の金額のことで、一方スポット為替レートとは、即時引渡しの場合の金額のことだ。このキャリートレードの形態は次の2つの取引を組み合わせている。最初の取引では先物プレミアムの通貨、つまり先物為替レートがスポット為替レートよりも高い通貨を売る。2つ目の取引では、先物ディスカウントの通貨、つまり先物為替レートがスポット為替レートよりも低い通貨を買う。要するに、先物プレミアムの通貨は調達通貨のようなもので、また先物ディスカウントの通貨は目標通貨のようなものだ。

なぜこの形態のキャリートレードが、もう一方の形態の、金利差に基くものと同じものといえるのだろうか?「カバー付き金利平価」("covered interest parity")とよばれる国際金融市場の平衡条件によれば、ある通貨の別の通貨に対する先物プレミアムは、その通貨間の金利差に等しい。いやむしろ、為替市場のトレーダーたちはこの条件を用いて金利差から先物為替レートを設定し、結果として先物プレミアムも設定しているのだ。このことは、低い金利の通貨にはたいてい先物プレミアムがある一方、高い金利の通貨にはたいてい先物ディスカウントがあることを示唆している。したがって、低金利通貨を借入れて高金利通貨で貸し付けることは、先物プレミアムの通貨を売り先物ディスカウントの通貨を買うことと同じことになるのだ。

理論的には儲からないが実際には儲かる

経済学の理論によれば、国家間の金利差を利用した投資戦略は予測可能な利益を生まないはずだ。高金利と低金利の2つの国を考えてみよう。「カバーなし金利平価」("uncovered interest parity")とよばれるもうひとつの国際金融市場の平衡条件によれば、この2つの国家の金利の差は、単に投資家が期待する高金利通貨の低金利通貨に対する減価率を反映しているに過ぎない。この減価がおこった場合には、低金利通貨で借入れて高金利通貨で貸付を行っていた投資家たちの利益は水の泡となる。実のところカバーなし金利平価条件は、高金利通貨での貸付からの利益はまさに低金利通貨の借入のコストと一致するために、投資家は何の利益も得られないと予想すべきであることを示唆しているのだ。

しかしながら、実際には、国際金融市場の投資家たちはこの戦略によって利益をあげているように見える。現に、市場参加者や解説者たちはたびたび、キャリートレードが最近のいくつかの為替レートの動揺の原因であると言及している。

なぜキャリートレードで利益をあげることが可能なのだろうか?もし調達通貨と目標通貨の間の為替レートが変化しないのであれば、キャリートレードからの利益は、2つの通貨間の金利差と先物プレミアムの両方に比例することになる。しかしながらもちろん、為替レートは変化するので、したがってキャリートレードは為替リスク、つまり目標通貨が調達通貨に対して減価するリスクを伴うことになる。このリスクが実現した場合、目標通貨で換算した調達通貨での当初の借入額が増加してしまうため、事実上この戦略の借入コストが増加することになる。同様に、目標通貨で貸し付けることで得られる高い金利は、調達通貨に換算すると結局その収益性が削減されるため、水の泡となるのだ。

それでは、もしキャリートレードがリスクを伴う戦略であるのなら、どうして投資家たちがこの戦略を大々的に用いているなどと報道されるのだろうか?その答は「先物プレミアムの謎」にある。これは為替市場における良く知られた経験的なアノマリーで、ある通貨の別の通貨に対する価値の実現変化率に与える先物プレミアムの影響と関係している。経験的な証拠によれば、先物プレミアムの、つまり低金利の通貨は、金利平価条件の理論が予測する増価ではなく、実際には平均すると減価する傾向にある。同様に、先物ディスカウントの、つまり高金利の通貨は、減価ではなく、平均すると増価する傾向にある。要するにこのアノマリーは、キャリートレードを行おうとする投資家が次の2つの要因、通貨間の金利差および当初先物ディスカウントで購入した高金利通貨の増価、により予測可能な利益を得る可能性が高いことを示唆しているのだ。

キャリートレードの利益と為替レートの動揺

キャリートレード戦略による利益はどのくらい大きいのだろうか?バーンサイドらによる研究(Burnside et al. 2006)はこの疑問へのひとつの解答を提供している。この研究で彼らは、彼らが「最適に加重された」キャリートレードポートフォリオと名付けたキャリートレード形態の利益特性について述べている。先の例と同様に、この形態でも先物プレミアム通貨の売却と先物ディスカウント通貨の購入を行う。またこのキャリートレード形態では、そのシャープレシオ(平均利益を利益の変動率で調整することでポートフォリオのリスク調整済みパフォーマンスを評価する指標)を最大化するよう、ポートフォリオの加重を選択することも行う。バーンサイドらは、彼らの戦略の1977年から2005年の期間における実現累積利益率は、同じ期間S&P500インデックスへ投資した場合のものと同じであることを見出した。しかしながら、彼らの戦略の相対的な魅力は、その利益の低い変動率にあった。彼らの戦略のシャープ・レシオはS&P500インデックスのシャープ・レシオの約1.5倍大きく、このことは彼らのキャリートレード戦略による利益の変動率はS&P500インデックスによる利益の変動率のたったの2/3しかないことを示唆していた。

しかしながら、最適に加重されたキャリートレードポートフォリオのシャープ・レシオは相対的に高いとはいえ、売値と買値の開きのような取引コストがポートフォリオから得られる利益と同じ規模となったために平均利益を著しく押し下げていた。このことは、十分な利益を生むためには、投資家はキャリートレード戦略を長期間繰り越す必要があることを示唆している。

したがって、金利差を利用する機会に誘発された通貨の需給の変化は、かなり大きくまた持続的な為替レートの変化をもたらす可能性がある。具体的には、金利差と先物プレミアムに基いたキャリートレードは、為替市場での調達通貨と目標通貨の需給バランスに影響を及ぼす。特にこの戦略は、調達通貨の空売りと同時に目標通貨の買いを行うために、調達通貨の超過供給と目標通貨の超過需要を引き起こしてしまう。そしてそれは結果として、低金利である調達通貨の減価と高金利である目標通貨の増価をもたらすことになる。更にまた、高金利な目標通貨の増価はますます多くの投資家たちをこの戦略に参入するよう仕向ける可能性があるため、究極的には、この戦略にかかわる通貨の為替レートの動きだけでなく、目標通貨の増価をも増幅することになる。

例えば、2005年のほとんどの期間において生じたドルの円およびユーロに対する増価は、増大する金利差に関連していた。金利が、米国では上昇する一方で、日本ではほぼゼロレベル、ユーロ圏では2%に留まっていたために、ドルは次第に魅力的な目標通貨に見えてきたのだった。対照的に、2006年の初期のドルの減価は金利差が縮小するという予想に関連していた。投資家たちが日本とユーロ圏における金利上昇を予想しだしたため、ドルを目標通貨として用いる魅力が減少したのだった。

キャリートレードはどのくらいの大きさなのか?

キャリートレードの為替レートに対する影響は、キャリートレードに関連した国際金融取引と投資ポジションの規模によって決定される可能性が最も高い。しかし残念なことに、これらの規模に関する証拠は極めて限られいる。これはひとつには、こうした戦略が通常は通貨スワップのようなオフバランス項目として報告される取引として実施されるため、公式な統計では観測が難しいことが理由となっている。

しかしながら、国際決済銀行(Bank for International Settlements, BIS)による2つの研究は、キャリートレード取引の規模と、したがってその為替レートの動きにおける重要性について、いくらかの証拠を提供している。そのうちのひとつの研究では、2通貨の交換を伴うすべての取引を米ドル換算した総額の、為替市場における回転率を扱っている。ギャラティとメルヴィン(Galati and Melvin, 2004)は、2001年から2004年の期間における為替市場回転率の顕著な上昇は恐らくキャリートレード取引の増加によるものだ、と主張している。彼らは、オーストラリア・ドルニュージーランド・ドルという、金利が相対的に高く、同時期に米ドルや円のような低金利通貨に対して長期間増価した2つの通貨において、回転率の上昇が特に著しいことを指摘している。彼らはまた、2001年から2004年の期間において、金利差が拡大するにつれてオーストラリア・ドルが米ドルに対して増価し、同時に為替市場の回転率が著しく上昇したことを、グラフを使って図解している。そしてまた、彼らは1992年から2004年にかけての調査データをもとに、主要な取引通貨の為替市場における回転率の上昇が米国との金利差に強く関連していることを見出している。

2つ目の研究は、BISに報告している銀行の国境を越えた円建て未払い債権の蓄積を扱っている。円は日本における長期間の非常に低い金利のために調達通貨として一般的になった通貨だ。マクガイアとタラシェフ(McGuire and Tarashev, 2006)は、2004年から明らかに増加基調にあった円建て債権の蓄積が、2005年の第4四半期に顕著に増加したことを報告している。彼らは、円建て債権の増加の多くは金融センターの投資家たちによる円借入の増加に起因するものであるため、このことが円キャリートレードポジションの更なる関与のいくばくかの証拠を提供していると論じている。

結語

市場参加者や解説者たちはたびたび、ここ数年の為替レートの動揺を、投資家たちが国家間の金利差を利用する戦略であるキャリートレードと関連付けている。しかしながら、教科書的な理論である金利平価条件が示唆するところではキャリートレードのような戦略は予測可能な利益を生まないはずなので、理論的な見地からみると、投資家たちがキャリートレードなどに携わるのは実に不可解なことだ。このEconomic Letterで述べたように、この謎を解く鍵はもうひとつの謎、つまり先物プレミアムの謎にある。この謎は、投資家たちがプラスの金利差にある通貨の買いとマイナスの金利差にある通貨の空売りにひきつけられるために、金利平価条件が示唆するところとは反対に、金利が高いか上昇している通貨は増価する傾向にあり、そして金利が低いか下降している通貨は減価する傾向にある、というものだ。キャリートレードの量的な重要性に関する証拠は非常に限られているが、しかしその証拠は今のところ、この戦略が近年の為替レートの動揺の重要な要素であったかもしれないこと示唆している。

Michele Cavallo
Economist

参照文献

Burnside, C., M. Eichenbaum, I. Kleshchelski, and S. Rebelo. 2006. "The Returns to Currency Speculation." NBER Working Paper 12489. http://www.nber.org/paper/w12489

Galati, G., and M. Melvin. 2004. "Why Has FX Trading Surged? Explaining the 2004 Triennial Survey." BIS Quarterly Review (December), pp. 67-98. http://www.bis.org/publ/qtrpdf/r_qt0412f.pdf

McGuire, P., and N. Tarashev. 2006. "The International Banking Market." BIS Quarterly Review (June), pp. 11-25. http://www.bis.org/publ/qtrpdf/r_qt0606b.pdf

*1:いや英語のままであれば良いんですけど(一部そうでもないか)、名詞句への関係節の修飾がむちゃくちゃ多用されてて訳しにくいったらありゃしないのです。例えば"The second study concerns the stock of outstanding BIS reporting banks' cross-border claims denominated in yen, a currency that has been popular as a funding currency, given the long period of very low interest rates in Japan."なんてこれで1文なんですがどうやって日本語にしたらいいか頭抱えてしまいましたよ。